醤油手帖

お醤油について書いていきます。 料理漫画に関してはhttp://mumu.hatenablog.comへ。お仕事の依頼とかはkei.sugimuraあっとgmail.comまでお願いします

「純米酒なら二日酔いしない」という言説はいい加減やめましょう

ちょっとひどい記事を見つけたので、もの申すということで。

sakepro.net

どこがひどいのか、順を追って説明いたします。

日本酒の飲み方に冷やと熱燗があるのはご存じですね。

まず初っぱなから。これが間違い。

※6月23日14時頃追記
「飲み方に冷やと熱燗がある」のであって、「冷やと熱燗しかない」という意味ではなかったので、この文章はそれはそれで間違いではありませんでした。ちょっと頭に血が昇っていて誤読をしたようです。申し訳ありません。以下の温度の話は、雑学としてお楽しみください

日本酒は何も加えずにさまざまな温度帯で楽しめる、世界でも稀なお酒です。そのため、温度に5℃刻みで名称がついていたりします。たとえば5℃でしたら「雪冷え」、10℃「花冷え」、15℃だったら「涼冷え」といった塩梅です。

そして、この文章中の「熱燗」というのは、温めたお酒、すなわち燗酒の温度帯の名称にすぎません。50℃ぐらいから「熱燗」です。そのちょっと下、45℃ぐらいだと「上燗」、40℃ぐらいだと「ぬる燗」ですね。

まあこれは、こうしなきゃいけないと法律で決まっているわけではありません。でも、慣習として呼び方が決まっているのです。

ちなみにちょっとした豆知識なんですが、人間は飲み食いするとき、体温からだいたい20℃ぐらい離れると冷たい、熱いと感じる傾向があるそうです。熱燗は50℃から55℃ぐらいというのは、熱いと感じるぐらいの温度で、55℃から上の飛びきり燗は、はっきりと熱く感じるから飛びきり熱いという意味でしょう。

そしてもうひとつ。「冷や」とありますが、これまた慣習では常温のことを指します。「〜冷え」という名前を書いたので勘違いしやすいところですが、実際には15℃から30℃ぐらいまでの間を「冷や」と言うのです。15℃以下の「涼冷え」とかついているのは、「冷酒」と呼ばれます。

もしかしたら世間一般の人は「燗酒」という表記じゃわからないんじゃないかと思って、「冷や」と「熱燗」と表記したのかもしれません。でも、仮にもお酒を扱うメディアがそれでいいのでしょうか。たとえば「燗酒(温めたお酒。「熱燗」が有名ですよね)」みたいな表記にするとか、工夫のしようがあるんじゃないでしょうか。結果的に正しくない言葉を広めようとしているように思えます。

まだひどいところがあります。

逆に「純米」の記載がないものは、醸造アルコールという風味や香り、アルコール度数の調整物が入っており、この醸造アルコールが二日酔いの原因ともいえます。

 

つまり日本酒を飲みたいけれど二日酔いはイヤだ、という方には「純米酒」をおすすめします。

ここ。本当にこれはお酒を扱うメディアの方が書いた文章なのでしょうか。

醸造アルコールが二日酔いの原因になるとか、本当の本当に信じているのでしょうか。

現在では、いわゆる「ちゃんぽん」の形で複数種類のアルコールを摂取すると悪酔いをするというのは否定されています。ちょっと論文とかどこか忘れてしまったので、厚生労働省の健康21のアルコールページをぺたりと貼ります。

www1.mhlw.go.jp

ちょっと長いし、「ちゃんぽんはダメよ」と書いていないので、どこを読んだらいいのかわからないと思うので引用いたします。

○「節度ある適度な飲酒」としては、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識を普及する。

 

 

欧米人を対象とした研究を集積して検討した結果では、男性については1日当たり純アルコール10~19gで、女性では1日当たり9gまでで最も死亡率が低く、1日当たりアルコール量が増加するに従い死亡率が上昇することが示されている

 

 

ここでポイントになるのは「純アルコール」という表現です。つまり、お酒の種類は関係なく、アルコールの摂取量が問題であると言っているのですね。

なので、先ほどのページの中には「主な酒類の換算の目安」という表があるのです。
ちゃんぽんにして、違うお酒を飲むとどれだけアルコールを摂取したのかわかりにくい。だから、純アルコールの換算の目安をなんとなく把握しておくと、自分の適量を探しやすいし、それで飲みすぎを防止しようというわけです。

はい、ここまできてわかってきましたね

純米酒だろうが、醸造アルコールが添加されている日本酒だろうが、摂取するアルコールの総量が問題であって、アルコールの種類が問題というわけじゃないのです。アルコール度数15%だったら、180ml飲むとだいたい純アルコール22g(180ml×15%×0.8(アルコールの比重は0.8))と覚えておけばいいわけですね。

自分が純アルコール50gぐらいが限界だった場合。日本酒を180ml飲んだ後は、あと28g分になるので、日本酒180mlをもう一杯飲むか、それともビールを500ml(これで+20g)飲もうか、はたまたウイスキーをダブル(43ml)で飲もうか(これで+20g)悩めばいいわけです。

ここで、ウイスキーもビールも飲みたいなと両方飲むと、許容量オーバーになってしまうというわけですね。日本酒とウイスキーとビールを1杯ずつしか飲んでないにも関わらず酔ってしまった! ちゃんぽんは悪酔いする! と思いきや、純アルコールで見ると単純に限界を超えていた、となるわけなのです。

というわけで、純米酒だったら悪酔いをしない、醸造アルコールが入っているお酒は悪酔いをする、というのは現在では否定されています。というか、純米酒だろうと飲みすぎれば悪酔いをします。

アルコールの種類が違うと悪酔いの原因になるという説は、焼酎ブーム(2004年ぐらい)のときに流行ったんですよ。蒸留酒だからアルコールが1種類、方や日本酒とかの醸造酒は複雑な構造なのでアルコールが4種類ぐらいある。だから日本酒は悪酔いをして、焼酎は悪酔いをしない! みたいな。所さんの目がテン!でやっていたのを見た記憶がありますので、当時はかなり広まっていたと思います。あ、僕は所さんの目がテン!大好きですよ。

でも現在はこうしてアルコール違いは関係なく、純アルコール量が問題だとなっているので、安心していろいろなお酒を楽しんでいきましょう!

 

というか、お酒のメディアが醸造アルコールをこうして二日酔いの原因だみたいに悪し様に言うの、本当に大丈夫なんでしょうか。醸造アルコールを使った大吟醸とかを出している蔵に喧嘩を売っているということですよね。ひとごとながらとても心配してしまいます……

 

最後にせっかくなんで自著の宣伝をして終わりにします。白熱お酒シリーズ、こういう二日酔い対策のお話とかも、ばっちり載っていますよ!

 

白熱日本酒教室 (星海社新書)

白熱日本酒教室 (星海社新書)

 
白熱洋酒教室 (星海社新書)

白熱洋酒教室 (星海社新書)

 
白熱ビール教室 (星海社新書)

白熱ビール教室 (星海社新書)

 

 

ページトップへ