醤油手帖

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「日本酒「純米酒」「吟醸」の違い、正確に言えますか?」の人は日本酒の違いを勉強した方がいい

前回の記事も、またまた思っていた以上の皆様に読んでいただけたようです。ありがとうございます!

shouyutechou.hatenablog.com

 

というわけで、第三回です。今回もあれです。

今回はなんというか、ツッコミどころが……という次元じゃない、のかな。うーん。

toyokeizai.net


日本酒「純米酒」「吟醸」の違い、正確に言えますか? という人が言えていない問題

前々記事「日本酒『"添加物"で伝統的造り方が減少』は問題か」で「高級酒ブームが来ている」と述べましたが、大変失礼ながら、この2つについて知らないままに「高級酒ならおいしい」と思って飲んでいる人もいるようです。

記事を読んだ感想が、大変失礼ながら、純米酒吟醸の違いについて正確に知らないままに「伝統的なお酒ならおいしい」と思って飲んでいらっしゃいませんか、でした……

2ページ目のツッコミどころ

日本酒で一定の条件を満たしたものは「特定名称酒」と呼ばれ、法律(酒類業組合法)によって8種類に分類されています。 

酒類業組合法……?

すみません。ちょっと法律の専門家ではないので、「この法律によって分類されている」という表現があっているのかはわからないのですが、とりあえず酒類業組合法(酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律)はこれですよね。

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律 | e-Gov法令検索

ここには具体的な数値とかは載っていないんですよ。

そしてたぶんなんですが、これを見たのじゃないかなあとも。

www.nta.go.jp

清酒の製法品質表示基準」です。確かに「特定名称の清酒の表示」について載っていますね。

冒頭にこうあります。()はこちらでフォントを小さくしています。

酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和28年法律第7号、以下「法」という。)第86条の6第1項の規定に基づき、清酒の製法品質に関する表示の基準を次のように定め、平成2年4月1日以後に酒類の製造場酒税法(昭和28年法律第6号)第28条第6項又は第28条の3第4項の規定により酒類の製造免許を受けた製造場とみなされた場所を含む。)から移出し、若しくは保税地域から引き取る清酒酒税法第28条第1項、第28条の3第1項又は第29条第1項の規定の適用を受けるものを除く。)又は酒類の販売場から搬出する清酒に適用することとしたので、法第86条の6第2項の規定に基づき告示する。

清酒の品質に関する表示を定めたら、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」に載っている通り、すみやかに告示しますよ、ということが書いてあるんです。

酒類の表示の基準)
第八十六条の六 財務大臣は、前条に規定するもののほか、酒類の取引の円滑な運行及び消費者の利益に資するため酒類の表示の適正化を図る必要があると認めるときは、酒類の製法、品質その他の政令で定める事項の表示につき、酒類製造業者又は酒類販売業者が遵守すべき必要な基準を定めることができる。
2 財務大臣は、前項の規定により酒類の表示の基準を定めたときは、遅滞なく、これを告示しなければならない。

これを「酒類業組合法によって分類されている」と言うのは微妙にあっているような、そうでないようなという感じなんですが……法律に詳しい方、ご存じでしたら教えてください!

というわけで、記事のツッコミに戻ります。

これに対して「吟醸」とは米をどのぐらい削るか(精米するか)によって決まってきます。吟醸は60%以下、大吟醸は50%以下まで精米します。

ここは、ちょっと正確ではありません。

言葉が足りていないんです。そして、この後の記事を読む限りでは、その足りていない部分について理解していらっしゃらないような……

ここの解説は後述します。

米は外側部分にたんぱく質が多く、内側に糖質が多いので、しっかり削って中の方だけ使えば、その分糖分が多くなって甘みのある酒ができるのです。「吟醸大吟醸」は「醸造アルコール」を使ってもOKです。

ここもかなり微妙です。

しっかり削って中の方だけ使えば甘みのあるお酒ができるわけではありません。

甘さの感じ方はいろいろあり、一概にこうだからこう! とはなかなか言えません。それでも甘さを感じるためには糖分が不可欠です。そしてその糖分は、発酵の過程でアルコールに分解されるため、どれだけ発酵するかによって残る量が決まるのです。

著者自身も1回目(連載的には62回?)の2ページ目で

「酛」をタンクに入れ、米、麹、米を3回に分けて加えるのです(3段仕込み)。このとき、酵母が糖をアルコールに変えます(アルコール発酵)。

と書かれていますよね。酵母が糖をアルコールに変えるので、しっかり発酵すればするほど糖は少なくなり、アルコールが増えます。

なので、どのぐらい発酵させたか、すなわちどのぐらい糖を分解したのかというのがお酒の指標のひとつになるんです。そこで使われるのが「日本酒度」という数値です。できあがったお酒の比重を計測したもので、数値が大きいほど糖が分解されており(比重が軽い)、数値が小さいほど糖が残っている(比重が重い)というものです。

味わいを決める要素はこれだけではないのですが、糖がどれだけ残っているかを示すのに便利なのでラベルに日本酒度が記載されているお酒も多いです。糖が多ければ甘いお酒で、糖が少なければ甘くない(辛口)お酒という感じに、指標にされることもあります。

ようするに、精米をたくさんすれば甘くなる、というわけではないのです。

あ、どうでもいいんですが、加えるのは米、麹、米ではなくて、書かれているどちらかの米は水ですね。

要するに「純米酒」と「吟醸大吟醸」は分け方の違いによるものです。
純米=「醸造アルコール」を添加していない、米だけの酒
吟醸大吟醸=米の磨き方/米の精米レベルで決まる

ここが! 要すらないんですよ! ここで足りない部分があるので、このあとの話が全部アレな感じになっているんです。

「特別本醸造」や「特別純米酒」など「特別」が冠についた酒もありますが、この「特別」に基準があるわけではありません。メーカーごとに申請し、許可が下りれば使用できます。

この部分も、よくわかっていないから適当に流したと思われちゃうんです……
いや、本当にわかっていないんじゃという気がします。

というわけで、ここの部分を説明するには、全部最初から説明しなければなりません。ある程度ポイントを絞っていますが、それでも長いです。なので、もう少し詳しく知りたい、よくわからなかったという人は、本を読んだりしてください。

特定名称酒は8種類ある

まず、8種類あると言っているんですが、元の記事をどんなにくり返し読んでも7種類しか登場していません。ここも、本当はよくわかっていないんじゃ……と思うポイントです。

特定名称酒は以下の通りです。

特別本醸造酒はお気に入りがあるためか、頻繁に登場するんですが、「本醸造酒」が登場しないんですよね……「特別」が冠についたお酒があります、という表現はあるんですが、そこから本醸造酒のことを読み取れというのは無茶じゃないかなあとも思います。

醸造アルコールの有無で分けよう

ここはまあ、元の記事もそれほど間違えているわけではありません。特定名称酒8種類は、おおきく2つのグループに分けることができます。

原材料に醸造アルコールを使っているものと、使っていないものですね。
使っていないものには「純米」とつきます。

精米歩合で分けよう

元の記事中では「精米度」という言葉が何度も登場します。まあこれは、日本酒に携わっている人はあまり使わないんじゃないかなあ。100%、誰も使っていないと言うほどではないんですが。だいたいの場合は「精米歩合」と「精白度」という言葉を使います。ここがごっちゃになってしまっていて、「精米度」という言葉を使っているのではないでしょうか。

で、ここでカテゴライズができるのも、間違いではありません。
というわけでこの部分の話をしていきます。

まず、前提として、特定名称酒というのは「定められた基準を満たしている材料や製法で造られているお酒」です。前回もちょっとお話しましたね。「米だけの酒」の中には純米酒と名乗れないものがあり、それはお米や麹の割合が基準を満たしていないからだ、という話です。

というわけで、お米をどれだけ磨いたかによっても、グループ分けができるんです。具体的には、精米歩合70%がひとつの基準になります。玄米から70%ほどになるまで磨けば、これはもうすごいことだぞ、と。あ、ちなみに我々が普段食べている白米は精米歩合90%ほどです。

玄米(100%)から白米(90%)にするのと、90%から80%にするのだと、同じように10%分磨いているだけだから簡単に思われるかもしれません。でもこれが違うんです。お米を磨けば磨くほど、固い部分がなくなったりして、やわらかく、脆くなっていきます。これが砕けないように、少しずつ外側を磨いていくのはとても大変なんですね。

なので100%から90%よりも、90%から80%の方が大変な作業だし、時間がかかります。そして80%から70%にするのはもっと大変な作業だし、時間がかかるのです。

というわけで、精米歩合70%までいけば特定名称がつけられるということになりました。醸造アルコールを加えたものが本醸造酒、加えていないものは純米酒です。

(お酒に詳しい人はここでツッコミを入れたくなっていると思いますが後述しますので焦らないでください)

じゃあ、もっとお米を磨いてしまおう。具体的には、70%じゃなくて60%にしてしまおう。これはもうすごいことだぞと。こんなにすごいなら「特別」の名をつけてもいいんじゃないか。というわけでこうなりました。

(お酒に詳しい人は以下略)

そしてここでさらに、吟醸造りという特殊な製法が登場します。

ただでさえ精米歩合60%ですごいお酒に、吟醸造りという特別に吟味して醸造する手法を加えたら、もっとすごいお酒になるんじゃないだろうか。それはもう、特別本醸造酒特別純米酒とは別ものだ! というわけでこうなります。

じゃあもっともっとすごいことをしよう。精米歩合50%にして、吟醸造りまで加えちゃう。これはもう現在考えられる最高峰のお酒に違いない! というわけで大吟醸酒純米大吟醸酒の名前がつきます。

というわけで、ここまでをまとめるとこんな感じです。

実際にはこんな風に順番で決まったとかそういうわけじゃないんですが、覚え方とわかりやすさを重視して順番に書いていきました。

なお、これは条件を満たしていればいいので、たとえば精米歩合45%とか、23%とか、50%以下の場合でも大吟醸酒or純米大吟醸酒になります。ウルトラスーパー吟醸酒とかはありません。

そして、時代が変わったりして基準が見直されたりもろもろあったりして、純米酒精米歩合70%以下じゃなくてもいいようになりました。最初にこの基準を定めたときは精米歩合70%ぐらいまで磨かないと良いお酒にならないんじゃと思われていたのが、現在の醸造技術だと精米歩合80%だろうと90%だろうとおいしいお酒になることがわかったからですね。

そして特別本醸造酒特別純米酒「客観的事項をもって特別なことをしている」のであれば、申請して許可が下りればつけられます。たとえば、通常では考えられないぐらい長い時間をかけて醸しているんですよ、とかそういうのです。

その特別なことをしている部分が、精米歩合に関わっているものの場合は、精米歩合60%以下に限りますよ、という形になっております。


吟醸造りについて

吟醸造りは文字通り「吟味して醸造する」ことなんですが、具体的には「低温でゆっくり発酵させる」というものです。

温度が低いと酵母がなかなか働きにくいので、温度が高めのときに比べると、同量のアルコールを生み出すのに時間がかかってしまいます。あまりに寒いと、我々もコタツで動きたくなくなってしまうように、酵母も活動をあまりしなくなるんですね。

そのため、吟醸造りは通常よりも長期間発酵させます。著者の方は「昔ながらのじっくり発酵させた酒がうまい」とおっしゃっていますが、実は吟醸酒もかなりじっくり発酵させたお酒なんですよ。

ちなみになんで温度が低い必要があるのかといいますと、いろいろあるのですが、ひとつには「吟醸香(吟香とも)」と呼ばれるいい香りを生み出す、酵母が持っている酵素が、温度に弱いからです。

吟醸酒の最大の特徴は果物のようなフルーティーな香りなんですが、その香りを生み出す酵母は、低温のときにたくさん出してくれるのですね。

 

あとは吟醸大吟醸ですと、ゆるーくお酒を絞っています。もろみの発酵が終わったときに、ろ過をしてお酒と酒粕を分離するのですが、このときにゆるーくやるので、酒粕が多く出るし、その酒粕には絞りきれなかったお酒がたくさん含まれているんですね。その分、絞ったお酒は雑味の少ない、綺麗な味わいになっているんです。そういったところでも贅沢な造り方をしています。

味について

著者の方は「お米を研げば甘みが増す」としか言っていませんが、それもちょっと微妙な表現です。
お酒の味わいはひとつの要素だけでは語れないため、一概に言うのは大変難しいのですが、それでも一般的な表現をすると

精米歩合の数字が小さいほど、雑味の少ない綺麗な味わいになる」

と言えます。

本醸造酒よりも大吟醸酒の方が、綺麗ですっきりとした味わいになるのですね。

そして、なぜ著者の方がしきりに「甘みが増す」と言うのか。それはおそらく吟醸香にあります。フルーティーで華やかな香りの吟醸香。人は、味覚よりも嗅覚で味わうことが多いために、甘い果物のような香りを嗅ぎながら飲むと「甘い!」と思ってしまうのです。

よく、かき氷のシロップは実は全部同じ味で、香りが違うだけと言いますよね。

他にも嗅覚の影響が強い例としては、苺やブルーベリーを鼻を摘まんで食べると味がしない、というのがあげられます。風邪のときに鼻が詰まっていると味がしないというのもそうですね。

じゃあ、どういう基準でお酒を選べばいいかは後述します。

高級なお酒が高いわけ

というわけで、ここまでくると何となくわかってくることがあると思います。それは、「高級なお酒がなぜ高いか」です。

簡単に言うと、「原材料をたくさん使って長期間発酵させたお酒は高い」んです。当たり前ですよね。

たとえば、あるお酒を造るのに、精米したお米が1kg必要だったとしましょう。

精米歩合40%だと2.5kgの玄米を用意しなければなりません。一方で、精米歩合80%だと1.25kgの玄米があればいいのです。この時点で、原材料費が倍違いますよね。

そして、吟醸造りなどをして、発酵に時間がかかれば、当然設備費や人件費がかかります。それも「原価」に反映されるのですね。

前述の特定名称酒の中では大吟醸酒純米大吟醸酒がお高いのですが、これは「原材料」と「長期間発酵」のためです。

ちなみに生酛も時間がかかりますので、お値段が上がる傾向があります。


3ページ目のツッコミ

以上を踏まえて、3ページ目のツッコミどころなんですが。

実際に65%研いだものと75%研いだものでは酒の出来上がりがまったく違います。60%まで研ぐと、甘みは出ますが、酒の風味自体はなくなります。

精米歩合で味わいが変わるのはわかりますが、60%以下まで研ぐと甘みは出ますが酒の風味自体はなくなります、というわけではありません。

甘みが出るわけでもなく、風味が失われるわけでもないのです。

 

【「吟醸」の原材料例】
米、米麹、醸造アルコール精米歩合45%

これ、スペック的には大吟醸酒なんですよね。精米歩合が45%ですので。

実は特定名称酒は、「条件を満たしたら名乗っていい(ラベルに記載していい)」というものだったりします。

なので、大吟醸酒の条件を満たしているということは、同時に吟醸酒の条件も満たしています。利き酒をしてみると、世間で言われる大吟醸酒のイメージよりは、吟醸酒に近いお酒に仕上がった。じゃあ、このお酒はあえて「吟醸酒」というラベルで売り出そう。みたいなことができるのですね。

ただその説明がなく45%のお酒を例にあげて説明なしというのは微妙な気がします。いきなり例外を挙げないでくれ、と。

ちなみに最近では、超人気の蔵などで、「こういう大吟醸とか純米大吟醸という言葉におどらされて欲しくない」ということで、あえて特定名称を記載しないお酒も増えています。

どうやってお酒を選べばいいのか。

現在は醸造技術の発達によって、特定名称でお酒の味わいを比べるというのは結構難度が高くなってきています。なんかこう、「本当は吟醸酒なんだけれども、どう味わってもこの風味の良さと味のクリアさは大吟醸酒」みたいなお酒とか、たくさんあるんですね。

というわけで、特定名称で種類を比べながら飲むというのは、推奨しません。

後はこの組み合わせで、好みの酒を選べばいいのです。

とは、あくまで私の意見ではありますが、思わないのです。

じゃあ何をもって選べばいいのか。

いろいろなポイントがあるんですが、初心者がまず覚えた方がいいのは「生」って書いてあるかどうかだと考えています。おそらくここが一番味の違いがあるのではないかと。

日本酒は品質の維持や、雑菌を退治するために、発酵が終わった後に「火入れ」と呼ばれる加熱殺菌をします。ところが、醸造技術や冷蔵技術、輸送技術の発達によって、その加熱殺菌をしないでお酒が流通できるようになりました。

これが「生酒」です。

生酒は開封前も後も冷蔵保存が基本ですので、それがわかるように「生」と書かれていたりします。あ、第一回で言っていた「生酛」のことじゃないですよ。「生酒」とか「生原酒」と書かれているかどうかです。

書かれていないものは、すべて火入れを行っています。というのも、加熱殺菌をするのが当たり前なので、わざわざ書いていないのです。

生酒は、たとえるならば、牧場でしぼりたての牛乳を飲むようなものです。

書いていない、つまり火入れされたお酒は、牛乳パックで飲む牛乳のようなものです。パックには「加熱殺菌」と書かれていますよね。

なので、日本酒を飲むときは「生」と書かれているのかどうかを気にして、飲んでみて気に入ったのなら改めてお酒のラベルの他の情報を見てみる、というぐらいでいいと思います。そのお酒が「吟醸酒」だったら、じゃあ次は別の蔵の「生」で「吟醸酒」を飲んでみよう、という感じですね。

もちろん、「生」と書いていない方がおいしいなと思ったら、次も「生」と書かれていないものを選ぶといいと思います。

めちゃめちゃ長々と書いてきましたが、結論としては「生」か「生でないか」をお酒選びの第一の基準にすると、わかりやすいですよ、ということです。


というわけでとりあえず2月20日現在で記載されているお酒についての記事のツッコミは以上です。次は今週末に控えているコミティアの宣伝をいくつか挟ませてもらって、いただいたブコメ等のご意見とか質問とかに答えていきたいと思います。

 

一応シリーズリンクということで

shouyutechou.hatenablog.com

 

shouyutechou.hatenablog.com

 

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