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醤油手帖

お醤油について書いていきます。 料理漫画に関してはhttp://mumu.hatenablog.comへ。お仕事の依頼とかはkei.sugimuraあっとgmail.comまでお願いします

醤油にまつわる誤解をきちんと解いてみよう

2016年にもなって、まだ醤油に関してこんなことを言っている人がいるとは……という記事がありました。

こちらなんですが、読まなくていいです。PVを稼がせるのもあれなんで、URLはhを取る昔ながらの手法です。
ttp://kininal.me/recommended-food01-soy-sauce/

 

全項目に関してツッコミどころが満載という、ものすごいひどい勉強不足の記事です。このサイトで醤油のことに関して書いているのはこれが初めてじゃなく、空気に触れない容器の醤油は危険とかいうこれまたひどい嘘記事を書いていたことがあったので、もうきちんと修正をしてやろうじゃないかと。

 

こういう記事に関して、どれだけ真に受ける人がいるのかはわからないんですが、世間一般に言われている醤油に関する誤解は一度きちんと解いておいた方がいいのではと思いました。よくよく考えてみたら、書籍や同人誌では書いていても、Webページ上ではっきりと書いた記憶が少ないので、いったんブログにがががっと書いてみます。長いですよ!!


■「市販の醤油が危険な理由1:遺伝子組み換え作物を使っている」の項目

醤油は確かに消費者庁で表示が義務づけられていません。その理由もまた、消費者庁のページで公開されています。

食品表示に関する共通Q&A(第3集:遺伝子組換え食品に関する表示について) | 食品表示 | 消費者庁

1 義務表示の対象となる遺伝子組換え食品の品目については、平成9年から11年までの2年余にわたり、消費者、生産・流通業者及び学識経験者からなる食品表示問題懇談会遺伝子組換え食品部会において議論した結果、科学的・技術的な観点から、表示の信頼性及び実行可能性を確保することが重要であるとの観点から、組み換えられたDNAやこれによって生じたたん白質が、ひろく認められた最新の技術によっても検出できない油やしょうゆ等の食品については、義務表示の対象外とされたところです。

2 なお、義務表示の対象品目については、組み換えられたDNA等の検出方法の進歩等に関する新たな知見、消費者の関心等を踏まえ、毎年見直しを行うこととしています。平成13年度にばれいしょ加工品6食品群が、平成17年度にアルファルファが、平成18年度にてん菜が、平成23年度にパパイヤが新たに義務表示の対象品目に追加されました。

毎年見直しが行われている義務表示の対象品目において、たんぱく質が検出できないので表示しなくてもいいよとされているわけです。

じゃあやっぱり遺伝子組換えのものを使っているんじゃないのと思う人もいるかもしれません。でも、よく手元の醤油を見てください。スーパーで売られているものも含め、ほとんどの醤油には「原材料:大豆(遺伝子組換えでない)」と書かれています。うちの手元にある200本ぐらいの醤油でもほとんど書いてありました。

市販の醤油のほとんどに使っていないと明記してあり、醤油加工品ですら「原材料に醤油(大豆(遺伝子組換えでない)・小麦を含む)」という表記のものが多いという現状で、遺伝子組換え作物を使っている! と強弁するのは生まれてこの方醤油を買ったことが無い人なのでしょうか。


■「市販の醤油が危険な理由2:ペットボトルに入っている」の項目

醤油は発酵食品です。
酵素が生きているのが本来の状態ですが、ペットボトルに入った醤油は全てこの酵素が死んでいます。

この項目で正しいのは、一行目の「醤油は発酵食品です」だけです。

まず発酵を行うのは酵素ではないです。酵母菌や乳酸菌などの微生物です。酵素は触媒なので、死んでいるという表現は妥当ではありません。生物が持っているのが酵素というたんぱく質であり、死ぬの生きるのという話ではないのです。

とまあ、スタート地点から間違えているので、以下の表現も間違いだらけなのですが、根本的に「ペットボトルの醤油=加熱」「瓶の醤油=非加熱」というのが間違いです。

醤油は酵母菌などが生きていると発酵が進んでしまうため、取り除かなければなりません。その際に一番多く行われているのが火入れと呼ばれる加熱殺菌です。牛乳でも加熱殺菌していますよね。あれと同じです。

加熱殺菌以外の方法だと、マイクロフィルターを使って酵母菌などをろ過で取り除きます。酵母菌が入っていなかったら、発酵は進みません。そうやって、加熱をせずにマイクロフィルターで取り除いたものが「生醤油」として販売されているものです。

で、この生醤油も火入れ醤油も、ペットボトルでも瓶でも両方売られています。瓶だから生きている、というのは間違いで、世の中に出回っている100%の「醤油」は菌がいない状態です。

じゃあ瓶の中で酵母が生きているものはないの、と思う方もいるでしょう。あります。ありますが、これはJAS法(日本農業規格)の中では「醤油」として扱われていないのです。「生揚げ(きあげ)」もしくは「生揚醤油」として、「醤油」とは別の扱いになります。ラベルを見ると商品名のところに「醤油」って書いていないのですね。それは、賞味期限が1ヶ月もないものであるから、普通の醤油とは別にしているのです。

 

もひとつ。

さらに、本来は1年かかる製造工程を大幅に短縮するために、人工的な菌を加え、高温で発酵させる等して、製造期間をなんと3ヶ月~半年程度に短縮。

すごい! ここだけ「菌」という言葉を使えている!
ということはさておき。これもちょっと違います。

まず人工的な菌というのは何なのかという話になっちゃうのですが、醤油で使われている菌も自然界に生きている菌であることは間違いありません。ただ、自然界にはあまりにも多くの菌が存在します。そこで、何も管理をせずにそのまま醤油を造るための発酵をさせようとしても、醤油造りに適した菌ではない菌が繁殖してしまう危険性があります。

ここでポイントになるのは、菌の世界は多数決で早い者勝ちということ。どんな菌でも、その場において過半数をとれれば他の菌を圧倒できます。なので、醤油造りに適した菌を過半数にしなければならないのです。

そこで、醤油造りに適した菌を採取し、選り分けて、それを培養してあらかじめ増やしておくわけです。そうしたらそれを醤油の材料に加えることで、過半数を取りやすくなり、失敗せずに醤油を造ることができるというわけですね。これを人工的な菌と呼ぶのだったら、世の中のほとんどの発酵食品(お酒も含む)を食べられなくなっちゃいますよ。

製造期間が短いのも、他の菌が入らない環境をつくり、空調を整え、理想的な環境にするからです。牛や豚だって、外敵から身を守る柵を作って守り、エサや水を十分に与え、丁寧に扱っていけばすくすくと成長していきますよね。それと同じことを発酵でやっているというわけです。ちなみに3ヶ月は短すぎかなー。大手メーカーでも3ヶ月で造ることはほぼ不可能です。

というわけで、この記事の人がいっているこの項目に関しては全部間違い。


■「良い醤油の選び方1:国産のオーガニック原料を使用したもの」の項目

上記で挙げた遺伝子組み換え大豆や、農薬を大量に使用して栽培された原料では、
栄養そのものがない上に、様々な病気を引き起こす可能性があり、食べること自体に非常に大きなリスクが伴います。

ちなみに、市販の醤油のほとんどは、大豆そのものではなく脱脂加工大豆を使用しています。
脱脂加工大豆は大豆から油を搾り取ったあとの残りカスのようなもの。栄養も大豆本来の風味もほぼ残っていません。

オーガニックを否定するわけじゃないんですが、必要以上に普通のものをおとしめる必要はないと思います。栄養も十分にありますし、さまざまな病気を引き起こす可能性もありません。

そして脱脂加工大豆に関して。

これは大豆から大豆油を取り除いたものですが、残りカスでは決してありません。そもそも最初は戦後の物資がないときに大豆油を別な用途で使った後の脱脂加工大豆しか手に入らなかったというものであったのも確かです。

ところが、大豆油を取り除いた後には、いい具合に隙間ができていて、菌が入り込んで発酵させやすく、普通の丸大豆(大豆油を搾っていない状態の大豆)で造るよりも旨味が強くなるということがわかったのです。ちなみに醤油の旨味は、大豆のたんぱく質を菌が発酵でアミノ酸にすることで生じます。発酵を最後の最後まで行えるので、旨味が多くなったというわけですね。

なので、現在では、わざわざ醤油を造るための脱脂加工大豆を作っています。もちろん大豆油は別の用途で用いますが、搾った後の残りカスというよりも、わざわざ醤油のための専用のものが作られている、そしてそれは味のためということを理解するといいでしょう。

そして、脱脂加工大豆は油と一緒に栄養素が抜けちゃうという主張があるようです。でも、丸大豆で作った醤油でも、最後に「醤油油(しょうゆあぶら)」がたくさん出てきます。そしてこれ、取り除いちゃうんですよ。理由は簡単で、おいしくないから。いやー、本当にこれがおいしくないんですね。取り除いた油は魚の飼料に使われたりします。飼料に使われるほどには栄養がたっぷりと含まれているからですね。

なので丸大豆の方が栄養がいっぱいある、それは油を取り除いていないから。という主張は、丸大豆でも結局最後に油を取り除くんだよということを覚えておくと今後恥をかかなくてすむと思います。

 

■「良い醤油の選び方2:伝統的な木樽発酵法で作られたもの」の項目

ここはタイトルから間違えています。

木樽って言い方、しないんですよ。桶なんです。樽は運搬用の容器で、蓋をするものです。桶は蓋を閉じません。

醤油は、かんたんに言うと木樽で材料を混ぜ合わせ、1年以上かけて発酵させ作られます。
この『木樽で仕込む』ということが重要で、木樽には原料を発酵させるために必要不可欠な“菌”が棲みつき、
彼らが材料を発酵させてくれるため、複数の栄養が含まれる美味しい醤油ができあがるのです。

一方、大手メーカーが採用しているのは木樽ではなくステンレスのタンク。
この製法では、菌がいないため本来は発酵しません。そのため、前述したように人工の菌を入れているのです。

 こういうとすごく簡単に聞こえますが、実際にはそうではありません。木桶には菌が住み着いているのも確かですが、それは醤油に有用なものから有用でないものまで住み着いています。従って、醤油を造ろうと思うと、木桶は他の菌が繁殖したりしないように注意深く見て、管理をする必要があるのです。それが最近木桶で造るところが減ってきている理由のひとつです。

で、大手メーカーは木桶を使っていないでステンレスという話もありますが、これも間違いでして。ステンレスもあれば、FRP製、コンクリート槽もありますし、木桶を使っているところだってあります。醤油のシェアの半分以上を持っている五大メーカーのひとつ、盛田の中のマルキン忠勇なんかは小豆島に300本以上の木桶を持っています。

 

■「良い醤油の選び方3:添加物を一切使用していないもの」の項目

市販の醤油は、実に様々な食品添加物が入っています。
香りづけのための、かつおぶしエキスや昆布エキス。うま味成分がないため、これを補うためのアミノ酸等の調味添加物。殺菌・防腐のためのアルコール。

食品添加物は、本来醤油を作る上では全く必要のないものです。
それどころか、食品添加物は様々な病気を私たち人間にもたらすことも分かっています。

 

うわ、だし醤油を全否定しちゃった……めんつゆとか食べられるのこの人……ということはさておいて。

「醤油」として販売されているものの中で、上記の添加物が入っているものはあります。それは濃口醤油の中の、混合醸造方式とか混合方式とか呼ばれるものです。混合方式は濃口醤油全体の3%ほどのシェアを占めているもので、発酵が終わって搾った後の醤油にアミノ酸液を加えたものです。

混合醸造方式は濃口醤油全体の18%ほどのシェアで、発酵しているもろみの中にアミノ酸液を加え、発酵。その後に搾ったものです。

これらも、戦後の資源がない時代に編み出された製法です。でも、現在まで使われている理由は旨味成分がないためではありません。地域の食文化に合った結果、現在でも使われて続けているのです。

混合方式や混合醸造方式でアミノ酸液を加えると、旨味もさることながら甘味が加わります。そう、甘い醤油というやつの正体はこれらの醤油なのです。九州の醤油は甘いという話を聞いたことがある人も多いと思いますが、その甘い醤油の正体のうちのいくつかはこれらの醤油というわけなのです。

甘い醤油の食文化の話を始めるとまたかなーり長くなるので割愛しますが、地域の食文化に根ざしたものであり、これらの醤油を使っている地域の人達がとりわけ病気にかかりやすいという話や統計データを見たことがありません。

ちなみに、アミノ酸液が入っていないものを選びたい場合には本醸造方式のものを選びましょう。ラベルに「こいくちしょうゆ(本醸造)」と書いてあるものです。

かつおぶしのダシとかが入っているのは、醤油ではなく「醤油加工品」ですね。

また、アルコールは、醤油の表面に白い膜、この正体は白カビなんですが、それができるのを防ぐためです。減塩ブームとかで、塩分控えめにした場合など、醤油本体で十分な殺菌力がない場合にアルコールを加えます。ちなみに発酵の過程でアルコールは生成される(醤油の香りの成分にアルコール由来のものもあります)ので、アルコールが入っているからダメというわけではもちろんありません。

 


と、まあ、こんな感じで全編に渡ってツッコミどころ満載な記事。
あっているのは、紹介されている醤油がすばらしいということだけでしょうか。

もとからこの記事を書いた人は勉強不足だし、細かい用語すらもしっかり調べていない、全体的にサイト自体が他の記事も含めてうさんくさい、というあれな感じですが、ああいう嘘記事に影響される人が一人でも少なくなることを祈ります。

もっと詳しいことを知りたいという人は、こちらを読んでみてください

 

醤油手帖 基礎知識編

醤油手帖 基礎知識編

 
醤油手帖

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8月25日0:40追記

わー! 300ブクマもいってしまいました。ありがとうございます!!

生揚醤油について興味を持ってくださっている方が多いので追記します。実は元記事の中でも紹介されている、弓削多醤油(埼玉県日高市)の醤遊王国で生揚醤油を購入することができます。

yugeta.com

吟醸純生しょうゆ」という商品です。要冷蔵で賞味期限が1ヶ月ほどしかないので、手に入れる際にはご注意ください。

また、東京圏の方は、松屋銀座の「職人醤油」さんで量り売りをやっていますので、そちらに行ってみるのがいいかと。

職人醤油の直営店 - 松屋銀座店

たぶん今は、上記の弓削多醤油さんの濃口醤油と、香川県のヤマロク醤油さんのさいしこみ醤油の生揚げ醤油を量り売りで買うことができると思います(しぼりたてを扱っているので、ときどきどの蔵かは変わります)

上記のリンクを見て、職人醤油って何!? と思った方は、是非ともこの夏のコミケで頒布した「醤油手帖 職人醤油のすべて」を読んでいただけるとうれしいです。

shouyutechou.hatenablog.com

購入はこちらからできます。

COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 醤油手帖 職人醤油のすべて

その他の地域の方は要相談ということで。よろしくお願いいたします。

 

8月27日追記

友人より、「お茶は酵素での発酵だよ」と言われました。そうでした。酸化酵素によってカテキンポリフェノールを酸化させる「発酵」を行って紅茶などをつくるのでした。

最初に書いたのは、狭義の発酵の意味でした。醤油の発酵には麹菌などの菌がもっているたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)やアミラーゼ(でんぷんを分解してブドウ糖にする酵素)が用いられるので、菌が発酵、菌の持っている酵素がそれを助けている、酵素が死ぬ生きるじゃないという記述そのものの大意には間違いがありませんが、誤解を招く表現で大変申し訳ありません。

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