このエントリは前回の「はま寿司の醤油を攻略する(関西編)」の続編というか、いただいたコメントとかのお返事も含んだものになります。というわけで、まだ未読の方はこちらを読んでいただけたらと。
ちょっと時間が経ってしまったのと、相変わらず量が膨らんでしまったので別エントリにしたのでした。なお、ありがたいことにたくさんコメント等をいただいていて全部目を通したのですが、ここで拾い漏れがありましたら申し訳ありません。
●関東濃口醤油について
関東のお友達がはま寿司に行って、関東濃口醤油の写真を撮ってきてくれました!
裏
はい、濃口醤油ですね。
脱脂加工大豆、小麦、食塩のみで造られていて、甘味のあるものは加わっていません。アルコールは防腐効果のためのものだったりしますので、味に大きく影響があるわけではありません。
いわゆる多くの方が口にする方が多い(シェア80%超)という意味では「普通の醤油」と言われる醤油です。糖分に関するものが一切添加されていないので、お寿司の醤油に甘さを求めていない人はこれが一番かもしれません。
別に全国に置いても良いとは思うのですが、関東限定にしているのは何かあるのでしょうか……消費量の数字とかはきっちりとチェックしていると思うので、思ったよりもほかの地方では濃口醤油が減らないのかもしれません。
●前回の記事についての補足とか
前回はま寿司についてコメントした者です。さっそくありがとうございます。私も今度試してみますね (id:mochitabesugi)
こちらこそ、コメントがきっかけで久々にはま寿司(うちからは電車を使わないと行けないのでついつい別のところに行ってしまうのです)に行きました。ありがとうございます!
推奨って店側のなのか本サイトのなのかどっちなんだろう。ひかりものにはポン酢という固定観念があってアジにはずっとポン酢だった (id:tekitou-manga)
記事がわかりにくくてすみません。
前回のエントリで最初に貼った公式のリンクに、醤油のラインナップおよびオススメが書いてあります。なので、エントリ内でも
「●はま寿司特製だし醤油(公式推奨ネタ:すべてのネタ)」
のように見出しにそれが書いてあったのでした。本文の中が食べた感想等です。ちょっと力尽きて途中から「推奨:〜〜」としちゃったのがわかりにくくなった要因ですね。申し訳ありません。
あと、ひかりものにポン酢もいいですよね〜
いつも適当に選んでたので、次回は参考にしながらちゃんと選んでみよう/寿司屋の父からマグロにタレ(穴子とかに付けるやつ)を教えてもらって以来お気に入りなので共有したい (id:p-2yan)
これはちょっと良い情報をいただきました! ありがとうございます!
ちなみに、タレの袋の写真も撮っております。
ちょっと反射して見にくいのですが、原材料は「糖類(砂糖(国内製造)、水あめ、果糖ぶどう糖液糖)、しょうゆ(小麦・大豆を含む)、食塩、カラメル色素、増粘剤(加工デンプン)、調味料(アミノ酸等)」となっています。
当たり前といえば当たり前ですが、何年にもわたって穴子を入れて注ぎ足して……みたいな作り方ではありません。
たしかにマグロに甘い煮詰めは面白そうですね。これはやってみます。
●関西風の刺身醤油では? 問題
関西甘口は関西風の醤油と読めば違和感あるが、関西風の刺身醤油と読めば違和感ないのでは?刺身醤油は九州風のに名付けたので関西風には紛らわしいから付けなかったと。関西は用途により醤油を使い分ける文化。 (id:blackdragon)
これは非常に難しい問題です。
というのも、関西においての「刺身醤油」とは何なのかから順番に考えなければならないからです。
刺身醤油に関しては、いろいろと難しいのですが、関東の濃口醤油系と、九州中心の甘い系があるということは前のエントリでお話をしました(もう一度リンク)
では、その中間地点にあたる中部地方はどうなのか。実は「たまり醤油」の文化なのです。大豆(発酵すると旨みになる)が多く、旨みがとても強い醤油を「刺身たまり」として使うのですね。
そして関西の、大阪にはそのあたりが全部入ってきていました。甘い醬油も? と思われるかもしれませんが、江戸時台の大阪は「天下の台所」です。全国の砂糖もいったん大阪に集められた後に出荷されていきました。それが「アメちゃん」文化の原型となった説もあるほどです。
でも、甘い醬油は流行りませんでした。大阪で食べられるお魚には、濃口醤油系が合うとなったようです。おそらく小豆島や和歌山から濃口醤油が入っていたというのも大きいでしょう。関東の濃口醤油(の原型)はもともと和歌山から伝播したものだったりします。
というわけで大阪は基本的には濃口醤油でお刺身を食べていたようです。
余談ですが、四国は東半分が大阪に影響を受けて塩辛い醬油、西半分が九州に影響を受けて甘めの醬油でお刺身を食べる文化があります。
そして関西はもうひとつ大きな文化の中心地として「京都」があります。ちょっとだけ乱暴に言ってしまうと、内陸型の都市である京都ではなかなか新鮮な魚が手に入らず、鯖街道を伝って運ばれる鯖か、生命力が強くて長時間の輸送に耐えうる鱧か、ぐらいだったりします。そういった環境では刺身醤油はと言ってもなかなか発達しません。鯖の「きずし」はショウガ醤油やポン酢で食べたりします。あとは愛知から入ってきたたまり醤油とかでしょうか。
というわけで京都での刺身醤油というと、なかなか「これ!」というものが見当たらなかったりします。甘い醬油を使うところも中にはあったとは思いますが、調べた範囲では濃口醤油の方が多いようです。新鮮な魚がないので、甘い醤油にしなくても熟成による旨みがあったからでしょう。
というわけで、主要都市の大阪と京都で考えてみても結構細かい食文化の差があったりします。なかなか一言で「関西の醤油」とは言えません。そして、現状では調べた大半のところは濃口醤油がベースになっているのです。
関西の刺身醤油が甘口寄りである、ということに違和感があるというのは、こういった理由からでした。
普通の醤油は何れですか?(基準値不明) 甘口って九州としこくの一部かと思ってた。 西側の方はソースも種類多いし、たれにこだわる傾向なのかな? (id:h1romi)
というわけで九州だけでなく四国の一部(主に西側)が甘い醬油なのは、上記の通りです。九州の影響を受けているのですね。
関西の、特に大阪は調味料にはこだわる人が多いです。ソースは種類が豊富なだけでなく、自分でそれをブレンドしたりもします。さらにポン酢も多く、大阪は日本で一番ポン酢会社が多い都道府県でもあります。売られている数も多く、自分の足で調べた範囲では改装前の阪神デパートで56〜7ポン酢ほど棚にならんでいました。
以前に見たテレビ番組で大阪の人にインタビューをしていたときの台詞がとても印象的です。
「牛肉も豚肉も鶏肉も味が違う。ならば、それぞれ違うポン酢を合わせて当然でしょう」
それぐらいこだわっているのですね。
ちなみに大阪の人に「大阪の家庭には必ずたこ焼き焼き器があるって本当?」と聞くと「そんなことないよ。うちにはあるけど」と答えるように、「大阪の家にはポン酢が複数あるって本当?」と聞くと「そんなことないよ。うちにはあるけど」と答えてくれる人が多かったりします。
●たまり醤油や塩も置いて欲しい
ここまで品揃えがあってメーカーもサンビシなら愛知県民としては「たまり醤油も置けよ」と言いたくなる。自分はたまりはイチビキ派だが。 (id:EmanuelWilfer)
東海地方出身者としてはどれ選んでいいか分からん、関西甘口醤油が一番近そうだが甘口という表記が気になる、イチビキの醤油出せよコラ (id:w1234567)
というわけで、愛知や岐阜などの東海地方の方々にはたまり醤油をお刺身に用いるので、こういう意見があるのでした。
サンビシさんはたまり醤油も有名ですし、ぜひとも置いて欲しいですよね。関西甘口醤油に加えて旨みを出すだけではもったいないとも思うのですが……
あと、イチビキの醬油もいいですよね!
こちらはゼンショーグループではないからはま寿司には入らないとは思いますが、入ってくれたらそれはそれでうれしい。
ちなみに東海圏は大豆たっぷり小麦少なめの「たまり醤油」をお刺身に使うほか、調理用に小麦たっぷり大豆少なめの「白醤油」を用いる文化圏でもあります。これがなかなかほかの地方にはないといいますか、ここ独自の文化なのですね。豆味噌文化圏が東海地方中心なのと同じような感じです。
なので、なかなかしっくりくる醤油を選ぶのは難しいと思います。
サンビシさんのほかの醤油を置いてくれれば解決な気もするのですが……
塩で食べたい時もあるのに、はま寿司は塩がないのか…スシローは塩がある。 (id:Toteknon)
塩の袋はあったかなあ。醤油関連にばかり気をとられていて、塩があるかどうかのチェックが欠けておりました。
ちなみにお刺身を塩で食べるか醤油で食べるか、好みがあるのですが基本的には醤油(濃口醤油)の方が良いと思います。というのも濃口醤油は「お刺身で食べる魚の生臭みを消す」ために味が進化していったという歴史があるからです。いわゆるマスキング効果を強くする方向に進化していったのですね。
新鮮な、生臭みのない魚はお塩で食べてもおいしいのですが、ちょっと旨み的には物足りない可能性がある(前回のエントリ参照)ということも合わせて、やっぱり適切な醤油がいいんじゃないかと思う派です。ただし、これは醤油が好きすぎる人の意見であるということを差し引いてください。
●旨みを足すのはネタに対する冒涜か問題
旨味を足した醤油を出すのはネタに対する冒涜じゃないのかね。手軽に美味いけどマヨラー的味音痴になりそう。 (id:spark7)
これもとても難しい意見です。好みの問題もありますので何が正しいと断言することができないのですが、個人的には冒涜とは考えておりません。
人類はいろいろなものを食べるために「調味料」を生み出しました。サラダだって生野菜のままや、塩だけ(サラダの語源)だと食べにくいのでドレッシングを生み出します。単なる塩や砂糖だけでなく、ドレッシングや醤油を生み出したのは、食に対する執念ともいえます。
お刺身も、よりおいしくたくさん食べられるように工夫をして、進化していきました。それぞれの地域で獲れる魚の種類や、手に入るものに合わせてさまざまなバリエーションが生み出されてきたのは、豊かな食文化の象徴とも言えます。
特に濃口醤油は前述のように「お刺身をおいしく食べるように」進化したのです。熟成させて旨みが出てきた魚は、同時に少し生臭みも出てしまいます。旨みを存分に味わうためには、生臭みをどうにかすることが不可欠だったのですね。そこで醤油が香りによるマスキング効果で生臭みを消し、旨みを足し、塩味を加えて食べられるようにしたのです。
そして食べる魚の種類や状態によって、さらに旨みを足したものの方が良いと進化していくのは、これは当然の流れといえます。そうやって工夫をしてきたからこそ、今の我々はおいしいものを味わえるのですね。
従って、旨みを足した醤油で味わうのはネタに対する冒涜ではないと思います。
が。
マヨラー問題について危惧しているのもわかります。何にでもマヨネーズをつけて食べる「マヨラー」は、一時期大きく話題になりました。マヨラーはどうしてマヨネーズばかり食べるかというと、それは日本のマヨネーズがおいしすぎるということと、薬理学的報酬効果にあります。
マヨネーズおいしすぎる問題は、もともとアメリカでマヨネーズを食べてその味に感動したキューピーの創始者の中島董一郎氏が、日本に紹介するときにはさらに栄養価を高めようとしたところに遠因があります。
より栄養価を高めようと、全卵ではなく黄身だけを、二倍量使っているのです。これによって、よりクリーミーでまろやかになり、さまざまな料理に合わせやすくなりました。まあ、おいしいんです。単体で味わっても。
そして薬理学的報酬効果ですが、これは中に含まれている油がカロリー高いというところにあります。簡単に言うと、脳が「こんなにおいしくてカロリーがたくさん摂れるものは繰り返し食べたい!」と思ってしまうのですね。なので、あまりにたくさん摂取しすぎるとどんどんやみつきになり、何にでもマヨネーズをかけないと物足りなくなってしまうのです。
このへんの話は、伏木亨先生の本にあれこれ書かれていて面白いです。
タイトルでインパクトがあるのはこれですかね(たぶん絶版ですが)
こっちにもそういう話が載っていた気がします……ってこれも今は手に入らないのかー
というわけで、マヨラーが何にでもマヨネーズをかけてしまい、味音痴になってしまうというのはほかの調味料とはちょっと異なる話だったりします。甘い醤油の砂糖にも薬理学的報酬効果がないわけではないのですが、油に比べると低いですし、そんな量を(醤油からは)摂取できません。
何にでも旨みを足した醤油をかける、それがないと物足りない、むしろそれだけ味わうということにはならないと思います。醤油をしょっちゅうペロペロするような個人の好みとは別に、ですが……
●タッチパネルの声とか
濃口か減塩醤油しか使ったことなかったな。はま寿司は茶碗蒸しがおいしい、あと時々、注文のタッチパネルの声が声優になる。 → 呼子のイカのお作りも甘いお醤油のほうが美味しいもんな、鮮度とうまみの話は納得。 (id:nanana_nine)
声優さんとのコラボ、すごいですよね。行ったときに、あれどこかで聞いた声が……炭治郎の人だ! とびっくりしました。映画とのコラボではないのに、鬼滅の刃コラボ感がある店内という……
あと全然関係ないのですが、はま寿司で食べているときに隣のテーブルで、お母さんがお子さんに向かって
「お醤油食べ過ぎたら死んでまうで!」
とお説教していました。
はい……すみません……