前のエントリでいただいたコメントで『はま寿司』の醤油についてのものがあり、いてもたってもいられなくなってしまったので早速行ってきました。
回転寿司の中でも豊富な醤油をとりそろえている『はま寿司』さん。でも、どれに何をつけたらいいか、ちょっとわからなくもなりますよね。今回はそんな醤油の特徴とか歴史とかもろもろの解説です。
なお、筆者は関西在住のため関西地区の醤油についてのお話です。関東と関西とで醤油ラインナップが微妙に異なるのです。また、減塩醤油はオプションだったので今回の解説にいれていません(要望があれば書きます)
●はま寿司特製だし醤油(公式推奨ネタ:すべてのネタ)
裏面はこんな感じです。
カテゴリとしては「だし醤油」です。もうちょっと大きい名称だと「しょうゆ加工品」ですね。まず濃口醤油(本醸造)を造り、そこにダシなどを加えています。
加えているのは果糖ブドウ糖液糖、みりん、かつお節エキス、昆布エキス、食塩、酵母エキスなど。果糖ブドウ糖液糖やみりんで甘味が結構加わっていますね。基本はだしと醤油の味わいなんですが、しっかりと甘さもあるという醤油です。
アルコールが入っているの? と思うかもしれませんがこれは問題ありません。雑菌が沸くのを防止するためにアルコールを加える醤油は結構あるのです。酔っ払ったり、自動車の運転が困難になるほど摂取するのは容易ではないので、気にしなくて大丈夫です。もちろん、お子さんでも安心して食べて大丈夫です。
何にかけても大丈夫ですが、甘さが少し気になるという方は、後述の日高昆布醤油をオススメします。
●甘口醤油<関西風>(推奨:サーモン・活〆はまち・つぶ貝・たまご)
裏面
最初に言っておきますと、関西が甘い醤油文化圏というわけではありません。むしろ醤油は塩っ辛いのです。淡口醤油は色がきれいなまま発酵を止めたり、雑菌がわかないよう、濃口醤油よりも塩分濃度が高いのです。なので個人的には「関西風」を甘口に寄せるのは少しだけ違和感がありました。
こちらもだし醤油です。「しょうゆ加工品」になっていますね。
面白いのは「濃口醤油(丸大豆醤油)」に「たまり醤油」を加えていること。たまり醤油は原材料の大豆(旨みになる)と小麦(甘みになる)のうち、小麦をほとんど使わず大豆中心の旨みが濃厚な醤油です。ここで醤油の旨みを強くし、なおかつ水あめ、酵母エキス、甘味料、調味料(アミノ酸等)を加えているという、かなり甘めの醤油になっています。だし醤油よりも結構甘いと感じるほどでした。
脂ののったサーモンにはかなり合いました。繊細な味わいのものよりは、しっかりかみしめておいしさを感じるものには甘口醤油がいいと思います。
●北海道日高昆布醤油(推奨:やりいか・ほたて・甘エビ・しめさば)
裏
こちらもだし醤油です。ダシに使っている昆布が北海道産の日高昆布というのがポイントでしょうか。もうひとつ、特製だし醤油と違うところがありまして、それは加えられているものの内容です。
昆布エキス、砂糖、食塩のみになっているところに注目してください。砂糖は入っているものの、記載順が昆布エキス(これが日高昆布製)の次なのもポイントでしょう。そう、あくまで関西のということにはなりますが、レギュラー醤油の中で一番甘くないのです!(関東のは「濃口醤油」に甘みがほとんどないことが予想されます)
味のバランスがとても良いだし醤油です。お寿司は濃口醤油で味わうという方にとっては、(関西店舗だと)この日高昆布醤油が一番満足感が高くなるのではないでしょうか。つまり、困ったら日高昆布醤油としておくと良いと思います。
お寿司には甘くない醤油を使いたい! という人で、関東店舗の濃口醤油がなくて悲しい思いをしている方はこちらの「北海道日高昆布醤油」を愛用していきましょう。
●九州甘口さしみ醤油(推奨:活〆まだい・あじ・えんがわ・しらす)
裏
一番の甘口です。お寿司に合うの? と気になる人も多いと思うのでちょっと解説を多めにします。
カテゴリとしては「本醸造濃口醤油」にさまざまなものを添加したものになっていますね。だしを加えていないからか、名称を「しょうゆ(本醸造)」としています。
ちょっと注目して欲しいのは原材料。
砂糖、脱脂加工大豆、食塩、小麦、果糖ぶどう糖液糖と書かれています。このうちの「脱脂加工大豆」「食塩」「小麦」はベースとなる醤油を造るためのものです。
原材料名は含まれているものが多いものほど左側に書かれるという決まりがあるので、醤油を造るときの大豆よりも多くの量の砂糖を使っているようです。すごいですね。さらに甘味料のステビアやカンゾウで甘みを加えつつ、増粘剤で粘りも出しています。
というわけでかなり甘めの醤油です。甘い醤油に慣れていないと、どういうネタに合わせればいいかわからないと思うかもしれません。ちょっと食文化の面からどういうネタに合うか考えてみましょう。
九州などで甘い醤油が好まれる理由のひとつに魚を食べるタイミングがあります。魚はきちんと締めると
- 締める→死後硬直→死後硬直が解けていく→熟成→腐敗
という工程を経ていきます。
ここに食感と旨みの多寡を重ねるとこんな感じ。
- 締める →死後硬直→死後硬直が解けていく→熟成 →腐敗
- コリコリ感→ 固い →柔らかくなっていく →柔らかい→グズグズ
- 旨み少ない→旨み少 →旨み増えていく →旨み多い→食べられない
これは死後硬直のあとから筋肉中のATP(アデノシン三リン酸)が分解されてイノシン酸(旨み成分)になっていくことで起こる現象です。なので旨みが増えるのは死後硬直が解けてから。死んだ直後はあまり旨み成分がありません。
いわゆる「腐りかけがおいしい」という言葉を聞いたことがあると思いますが、それはこういう理屈なのですね。腐る直前が一番旨みが多いというわけです。
関東や関西などでは「熟成」のときに刺身を食べる文化があります。一方で九州などでは死後硬直の手前のコリコリ感のあるときに食べる文化があるのです。このお刺身は食感が良いものの旨みが少ないため、そこを補うために、醤油に旨みや甘味を増やしていったという側面があるのです。
というわけで、九州の甘い醤油が真価を発揮するのはコリコリ食感のお刺身というのがポイントになります。推奨ネタも活〆まだいとかえんがわとかが中心になっていますよね。
「活〆」と書かれているネタや、甘い醤油に負けない味が強いものにつけて食べると良いでしょう。
●まろやかぽんず(推奨:生たこ・真たこ・えび)
裏
ゆず果汁、すだち果汁中心のポン酢です。
ポン酢をお寿司につけて食べるの? と思う方もいるかもしれません。板前さんが酢飯などの酢の塩梅をしっかりしているのに酸味のある調味料で食べるのか、と。もちろん、ちょっと嫌な顔をする板前さんもいるでしょう。でも大丈夫。ここははま寿司です。好きなものを好きにかけて食べればいいのです!
酸味が立ちすぎていないため、お寿司に結構かけても「すっぱ!」とはあまりなりません。まさに「まろやか」ポン酢ですね。
上品な白身のお寿司にポン酢はよく合います。推奨されている「タコ」は、そういえば試すの忘れていました。でも噛むほどに旨みが出るタコにも合いそうですね。また、Twitterで「これからは鱈キク(東北地方での白子の呼び名)の軍艦とかが出る」と教わりました。だとすると、このポン酢はばっちり合うでしょう!
●まとめ
というわけで、だいたいの大まかな攻略法ですが、甘い醤油に抵抗がない人はこんな感じから試してみるといいと思います。
- だし醤油:わりと万能
- 関西甘口醤油:脂ののったネタ
- 九州甘口醤油:活〆系
- 日高昆布醤油:わりと万能
- まろやかポン酢:白身とかタコとか
甘い醤油に少し抵抗があるという人は「日高昆布醤油」を万能枠におき、デッキを組むといいでしょう。
●最後の豆知識
『はま寿司』の醤油、そして穴子用の甘いタレにいたるまで、すべて愛知県に本社を置く「(株)サンビシ」製です。実は、いろいろとあった末に2006年に株式会社ゼンショーの子会社になっています。そして、はま寿司はゼンショーグループ。自社グループで醤油を造っているからこそ、はま寿司はたくさんの醤油を並べられるというわけですね。
※お返事にちょっと時間が経ってしまったのと長くなりすぎたので別エントリにしてみました