醤油手帖

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あかし魚笑

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2009年の締めくくりに紹介するには、どんな醤油がふさわしいか。ちょっと悩んだけれども、ここは僕が醤油にここまで傾倒するきっかけになった醤油を紹介していこうと思う。

もやしもん」という漫画がある。ものすごい色々とはしょって言うと、農大での面白おかしい学生生活を描いた漫画だ。この漫画では主人公が通っている農大の先生があれこれ発酵に関することをわかりやすく教えてくれるのもお気に入りの点だったりする。

そのもやしもんにおいて、醤油について紹介された回があった。そこでは世界中の醤油の仲間が一覧になって紹介されており、その中に日本三大魚醤として「しょっつる」「いしり(いしる)」「いかなご」と記述されていた(正確にはここでは日本三大魚醤と言っているわけではないけども)。ここで僕は疑問に思ったのだ。あれ、いかなご? と。

簡単に説明すると、いかなごは瀬戸内海で採れる小さい魚だ。春先にはこの「いかなご」を醤油やみりん、砂糖、生姜などとともに煮詰めた「いかなごの釘煮」が各家庭で作られる。各家庭秘伝のレシピによって作られるいかなごの釘煮は、神戸の人達のソウルフードと言えるものだ。

そう。いかなごと聞いて僕が思い浮かべるのは、この釘煮だった。少なくとも神戸の人にとっては釘煮以外考えられないのではないだろうか。実際、周りの人に聞いてみても釘煮しか知らないと言われたのだ。

そんなある日、たまたま行った兵庫県明石市の商店街「魚の棚」で見つけたのが、このいかなご魚醤だったというわけだ。あの時に疑問に思った魚醤が現実にある!と興奮して即購入。味見をしてみてそのおいしさに大興奮し、関西の友人達に勧めまくったりもしてしまった。

あれこれお話を伺ってみると、いかなご魚醤はもともと香川県の特産品だったが、いかなご魚醤を使った郷土料理があまり無いのと、香川県自体が醤油の産地だったこともあってだんだんと廃れていき、この50年ぐらい作り手が途絶えていたそうだ。そこで、明石の「たなか酒店」というお店のご主人が中心になって作り方を研究し、現代に復活させたとのこと。

この「あかしの魚笑」は赤茶色の美しい色合いをしており、いかなごの釘煮に適さないサイズまで育ったものを使って作った魚醤だ、非常にうまみが強く、このまま水で薄めて出汁に使えるぐらいだ。また、魚醤ならではの生臭さもあるものの他の魚醤よりも臭みが少なく柔らかい感じだ。

これだけうまみが強いと、いろんな物に使えすぎて困ってしまう。卵かけご飯に入れても美味しいし、炊き込みご飯に入れてもいい。何にでも隠し味に少量入れるだけで、ぐっと旨味が増してしまう。この魚笑を買ったときにたなか屋さんでいただいたレシピ集には、「エースコックのわんたんめんを通常より多くの湯で麺を入れ、軽くほぐしたら溶き卵を入れ、麺ができあがる直前に添付のスープと魚笑(小さじ1弱)を入れて火を止め、ねぎを入れる」なんてものもある。これがまたものすごく美味しいのだ。

あと、個人的にお気に入りの食べ方としては、そうめんにかける食べ方だ。小分けにしたそうめんにオリーブオイルとこの魚笑を入れ、刻んだネギを散らして食べるというもの。これが実に美味しい。やったことが無い人は是非一度試してみて欲しい美味しさだ。ちなみに同じレシピでしょっつるで作ると、ちょっと塩気と生臭みが強くなってしまったように感じた。この食べ方ではあかし魚笑の方がいいようだ。

もちろんこれだけが全ての要因ではないけれども、僕はこの魚醤で醤油の奥深さを知り、はまっていった。実は、もともと塩にはまっていたのだけれども、醤油の方がもっと色々な種類があり、また味のバラエティに富んでいるということで、塩をあれこれ集めるのではなく醤油を集めていくようになってしまったのだ。

さて、この「あかし魚笑」を手に入れる方法だが、基本的にはこの「たなか酒店」に問い合わせてもらうしかないと思う。他のところで見かけたことは無いからだ。
明石 魚の棚 たなか酒店・呑み処 たなか屋

また、いかなご魚醤ということであれば、最近知ったのだが香川県の料亭で作っているものもあるそうだ。こちらは通販で手に入るので、いずれ手に入れてそれぞれ味比べとかをやってみたいと思っている。

もやしもんの醤油のお話はこちらの巻

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